あれは5年前のことでした。右下の奥歯をひどい虫歯で抜くことになり、その後の治療法としてインプラント、入れ歯、そしてブリッジの3つの選択肢を提示されました。当時の私は30代半ば。入れ歯は年寄りくさくて嫌だし、インプラントは手術が怖い上に費用も高い。消去法で、一番手っ取り早くて保険も適用されるブリッジを選びました。「両隣の健康な歯を削りますよ」という先生の説明も、「まあ、見えない場所だし大丈夫だろう」と軽く聞き流してしまったのです。今思えば、この時の安易な決断が、その後の「歯の悩み地獄」への入り口でした。治療はスムーズに終わり、銀色のブリッジが入りました。最初は異物感がありましたが、すぐに慣れて何でも噛めるようになりました。「やっぱりブリッジにして正解だった」と思っていました。しかし、メンテナンスについて甘く見ていました。先生からは「ブリッジの下は汚れが溜まりやすいから、専用のフロスを使ってね」と言われていましたが、面倒くさがりな私は、最初の数週間こそ頑張ったものの、次第に普通の歯磨きだけで済ませるようになっていきました。異変が起きたのは、ブリッジを入れてから3年ほど経った頃です。冷たい水がひどくしみるようになりました。知覚過敏かな?と思い、しみるのを防ぐ歯磨き粉を使ってごまかしていましたが、だんだんと噛むたびに鈍い痛みを感じるようになりました。それでも歯医者に行くのが億劫で放置していたある日、キャラメルを噛んだ瞬間に「ガリッ」という嫌な音がして、激痛が走りました。慌てて鏡を見ると、ブリッジが不自然に浮き上がっていたのです。急いで歯科医院に駆け込むと、先生はレントゲンを見て渋い顔をしました。「土台になっていた奥の歯が、虫歯でボロボロになって根元から折れていますね」。診断は、二次カリエスによる歯根破折。ブリッジの下の清掃不良で虫歯が進行し、弱くなった歯に噛む力がかかって耐えきれずに割れてしまったのです。「この歯はもう残せません。抜歯になります」。その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になりました。1本失った歯を補うために、健康だった両隣の歯を削り、その結果、さらに1本失うことになったのです。残されたのは、手前の歯1本と、奥に2本分の欠損という絶望的な状況。もうブリッジはできません。選択肢は、さらに範囲を広げた大きな部分入れ歯か、高額なインプラントのみ。結局、私は借金をする覚悟でインプラントを選びましたが、失った自分の歯と、削ってしまった手前の歯のエナメル質はもう二度と戻ってきません。「あの時、もっと真剣にメンテナンスに取り組んでいれば」「歯を削るリスクをもっと重く受け止めていれば」。後悔の念が押し寄せました。ブリッジは「入れたら終わり」の魔法の歯ではありません。健康な歯を犠牲にして成り立つ、リスクの高い治療法なのです。もしこれからブリッジを検討している方がいるなら、私は声を大にして言いたいです。「削った歯の寿命は確実に縮まる」という事実と向き合い、入れるなら死ぬ気で掃除をする覚悟を持ってください。私のようにならないために。