舌に現れる黒い点は、口の中だけの問題(噛んだ傷や色素沈着)であることが大半ですが、ごく稀に、全身の重篤な疾患が原因となって現れている警告サインであるケースがあります。舌は「全身の鏡」と言われるほど、血液の状態や内臓の健康状態を敏感に反映する臓器です。たかが黒い点と侮っていると、背後に潜む大きな病気を見逃してしまうかもしれません。ここでは、舌の異常とリンクする全身疾患について解説します。まず疑うべきは「血小板減少性紫斑病(けっしょうばんげんしょうせいしはんびょう)」などの血液疾患です。血液の中には、出血を止める役割を果たす「血小板」という成分がありますが、何らかの原因でこの血小板が極端に減ってしまう病気です。血小板が減ると、ちょっとした刺激で出血しやすくなり、血が止まりにくくなります。その結果、舌や頬の粘膜に、噛んだ覚えもないのに無数の小さな血豆(点状出血)ができたり、紫色のあざ(紫斑)ができたりします。口の中だけでなく、手足に打ち身のようなアザができやすい、鼻血が止まらないといった症状が併発している場合は、血液内科での精密検査が急務となります。次に、「アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)」というホルモンの病気です。腎臓の上にある副腎という臓器の働きが悪くなり、コルチゾールなどのホルモンが出なくなる指定難病です。この病気の特徴的な症状の一つに、皮膚や粘膜の色素沈着があります。全身の皮膚が日焼けしたように黒くなるほか、舌や歯茎、口の粘膜にも黒っぽいシミや斑点(メラニン沈着)が現れます。同時に、強い倦怠感、食欲不振、体重減少、低血圧などが見られる場合は、内分泌系の異常を疑う必要があります。 また、消化器系のポリープと関連する遺伝性の病気として「ポイツ・イェーガー症候群」があります。これは、唇や口の中、指先などに黒褐色の小斑点ができるのが特徴で、同時に胃や腸に多数のポリープが発生します。子供の頃から唇や舌にシミが多い場合、将来的に腸重積や消化管の出血を起こすリスクがあるため、消化器内科での定期的なチェックが必要になります。さらに、漢方医学的な視点では、舌が暗紫色や黒っぽい色になる状態を「お血(おけつ)」と呼び、血の巡りが滞っているサインとみなします。これは西洋医学的な病名ではありませんが、動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞などの循環器系リスクが高まっている状態を示唆しているとも考えられます。舌の裏の静脈が怒張しているのも、このお血の一種です。このように、舌の黒い点は、血液、ホルモン、消化器、循環器と、多岐にわたる全身のトラブルと繋がっている可能性があります。「口の中の怪我かな?」と思って2週間様子を見ても治らない、あるいは数が増えている、他にも体調不良がある。そんな時は、歯科だけでなく内科的な視点を持つことが大切です。「最近、体がだるくて舌に黒い点ができた」と医師に伝えるだけで、診断の大きなヒントになり、早期発見に繋がることがあります。舌はあなた自身の体からのSOSメッセージを映し出すモニターです。日々のチェックで、その微細な変化をキャッチしてあげてください。