ドライソケットになりやすい人の行動パターンの中に、「吸う」動作を頻繁に行っているという共通点があります。抜歯後の生活指導で「強いうがいはダメ」「傷口を触ってはダメ」ということはよく言われますが、意外と見落とされがちなのが、この口の中を陰圧(いんあつ)にする行為です。陰圧とは、口の中の空気を吸い込むことで気圧が下がり、内側に向かって強い吸引力が働く状態のことです。この力が、抜歯窩に蓋をしているデリケートな血餅にとって、致命的なダメージとなることがあります。最も代表的で危険なアイテムが「ストロー」です。カフェでアイスコーヒーを飲んだり、コンビニでパックジュースを買ったりして、無意識にストローを使っていませんか? ストローで飲み物を吸い上げる時、口の中には瞬間的に強い陰圧がかかります。この吸引力は、飲み物を吸い上げるだけでなく、歯を抜いた穴の底にある血餅をも吸い上げてしまうのです。特にシェイクやスムージーのような粘度の高い飲み物を吸う時は、より強い力が必要となるためリスクは倍増します。「スポン」という感覚とともに血餅が剥がれ、口の中に血の味が広がった時には、すでにドライソケットへのカウントダウンが始まっています。抜歯後数日間は、どんな飲み物であってもストローの使用は厳禁とし、コップから直接飲むようにしましょう。また、日本人の食文化に欠かせない「麺類」も要注意です。ラーメン、うどん、そばなどを「ズルズルッ」と勢いよくすする動作も、ストローと同様に強い陰圧を生み出します。麺をすする瞬間の口の中は真空ポンプのような状態になっており、傷口にかかる負担は想像以上です。熱いスープが傷口にしみるリスクと合わせて、麺類を食べる際はすするのではなく、レンゲに乗せて口に運ぶか、短く切ってパクパクと食べるスタイルに変える必要があります。さらに、日常の何気ない癖の中にもリスクは潜んでいます。例えば、鼻水が出た時に鼻を強くかんだり、逆に鼻を強くすすったりする動作。これも口や鼻腔内の圧力を急激に変化させ、上顎の親知らずを抜いた場合などは特に影響が出やすいです。また、傷口から滲み出る血の味が気になって、無意識に傷口周辺を「チュッ」と吸ってしまう癖がある人も非常に危険です。口の中が気になるとついやってしまいがちな動作ですが、自分で自分の血餅を吸い出している自殺行為に他なりません。楽器演奏(管楽器)や風船を膨らませる行為も同様に避けるべきです。ドライソケットは運悪く「なるもの」ではなく、こうした何気ない行動によって自ら「招いてしまうもの」である側面も大きいのです。抜歯後の数日間は、「吸う」という動作を生活から排除することを意識してください。飲み物はコップで、麺はすすらず、鼻は優しく拭く。これらの少しの注意が、あなたを激痛から守る盾となります。無意識の癖というのは恐ろしいものですが、一度意識すればコントロール可能です。自分の口の中の気圧変化に敏感になり、血餅という大切な赤ちゃんを守り抜く気持ちで過ごしましょう。