あれは、大事なプレゼンテーションを翌週に控えた、多忙と緊張のピークだった時のことです。いつものように朝食のパンを頬張った瞬間、下唇の内側をガリッと強く噛んでしまいました。「やってしまった」と思いましたが、その時は少し血が滲んだ程度。しかし、その小さな傷が、その後一週間にわたる悪夢の始まりでした。翌朝、傷は直径5ミリほどの、典型的な白くて丸い口内炎へと姿を変えていました。場所が悪かったのです。下唇の、ちょうど下の前歯が当たる位置。喋るたびに、唇を閉じるたびに、歯の先端が口内炎を刺激し、ズキン、ズキンと鋭い痛みが走ります。プレゼンの練習をしようにも、痛くて滑舌が悪くなり、全く集中できません。食事は、拷問に近いものでした。温かいコーヒーがしみ、サラダのドレッシングがしみ、果物の酸味がしみる。結局、その日の食事は、味のしないゼリー飲料で済ませるしかありませんでした。市販の塗り薬を試しましたが、唇は動きが多いためか、すぐに取れてしまいます。貼るタイプの薬は、なんとか付着させられたものの、異物感が気になって、かえって口元がこわばってしまいます。痛みと焦りで、夜もよく眠れず、日に日に口内炎は大きくなり、その周りの歯茎まで赤く腫れてきました。このままでは、プレゼン本番でまともに話すことすらできない。絶望的な気持ちでインターネットを検索し、藁にもすがる思いで「口内炎 レーザー治療」という文字を見つけ、近所の歯科医院に駆け込みました。歯科医師は、レーザーを患部に数分間照射する治療を施してくれました。痛みはほとんどなく、少し温かい感じがするだけ。すると、驚いたことに、治療直後から、あれほど鋭かった痛みが、明らかに鈍いものに変わっているのです。レーザーが患部の表面に薄い膜を作り、外部の刺激から保護してくれるとのこと。その日の夜は、久しぶりにお粥を美味しく食べることができ、ぐっすり眠れました。翌日には痛みはさらに和らぎ、無事にプレゼンを乗り切ることができたのです。この経験を通じて、我慢せずに専門家の力を借りることの大切さを、身をもって学びました。
下唇の口内炎との長い戦い