朝起きて口の中に違和感を覚え、鏡を覗き込んだ瞬間の絶望感。そこには、米粒大のかわいいものではなく、小豆大、あるいはそれ以上に巨大化した白く濁ったクレーターが鎮座していることがあります。「でかい口内炎」ができてしまった時の、あのこの世の終わりかのような憂鬱さは、経験した人にしか分からない苦しみでしょう。通常、一般的なアフタ性口内炎は直径数ミリ程度で、1週間もすれば自然に治癒していくものですが、時として直径1センチを超えるほどに巨大化し、激痛を伴う「重症化」した状態になることがあります。なぜ、私たちの口の中の小さな傷は、これほどまでに大きく、深く、凶暴化してしまうのでしょうか。口内炎が巨大化する最大の要因は、初期段階での「炎症の連鎖」と「治癒力の低下」の負のスパイラルにあります。口内炎の始まりは、頬の内側を誤って噛んでしまったり、硬い食べ物で傷つけたり、あるいはストレスや疲労によって粘膜の免疫力が低下し、小さな潰瘍ができたりすることからスタートします。健康な状態であれば、唾液に含まれる抗菌成分や組織修復能力によって、傷は速やかに塞がれます。しかし、極度の疲労、睡眠不足、栄養バランスの乱れなどが重なっていると、この修復メカニズムが正常に機能しません。傷口が無防備な状態で放置されることで、口腔内の常在菌が傷口に侵入し、二次感染を引き起こします。細菌との戦いが激化することで炎症反応が強く起こり、組織の破壊が進んで、潰瘍が周囲へと拡大していくのです。これが「でかい口内炎」への成長プロセスです。また、物理的な刺激の繰り返しも巨大化の大きな原因です。口内炎ができると、患部が腫れて盛り上がるため、食事や会話の際にどうしても歯が当たりやすくなります。「痛い!」と思った瞬間には時すでに遅く、治りかけていた薄い皮を再び歯で削ぎ落としてしまっているのです。この「誤咬(ごこう)」を繰り返すことで、傷は深くなり、範囲も広がり、えぐれたようなクレーター状になります。特に、歯並びの問題や、被せ物の不適合、尖った歯がある場合などは、同じ場所を何度も刺激してしまうため、慢性的に巨大な口内炎ができやすい環境と言えます。さらに、免疫系統の暴走も関与していると考えられています。アフタ性口内炎の詳しい原因は未だ完全には解明されていませんが、一種のアレルギー反応や自己免疫的な反応が関わっているという説が有力です。体が疲れている時に、ウイルスや細菌に対する防衛反応が過剰になり、正常な粘膜細胞まで攻撃して破壊してしまうことで、広範囲にわたる潰瘍が形成されるのです。これは「再発性アフタ」の重症型とも呼ばれ、直径1センチ以上の「腺性アフタ」へと発展することがあります。こうなると自然治癒には1ヶ月近くかかることもあり、瘢痕(あと)が残るほど深く傷つく場合もあります。