私の人生は、一本の前歯に長年支配されていました。子供の頃に神経を抜いた前歯が、年々黒ずんでいくのが、私の最大のコンプレックスでした。友達と話す時も、写真を撮る時も、いつも無意識にその歯を隠すように口元を歪め、心から笑うことができませんでした。そんなある日、硬いものを食べた瞬間、その歯が根元から折れてしまったのです。歯科医院で告げられたのは「残念ですが、抜歯しかありません」という非情な宣告でした。頭が真っ白になり、涙がこぼれました。長年のコンプレックスではあったけれど、いざ失うとなると、その喪失感は耐えがたいものでした。しかし、落ち込んでばかりもいられません。先生は、抜歯後の治療法として、ブリッジとインプラントを提案してくれました。健康な歯を削ることに抵抗があった私は、費用はかかっても、自分の歯のように美しく仕上がるというインプラント治療を選ぶことにしました。抜歯当日は、恐怖でいっぱいでしたが、麻酔のおかげで痛みは全くなく、あっという間に終わりました。そして、すぐに綺麗な仮歯を入れてもらえたので、歯がない状態で帰るという最悪の事態は避けられました。それから数ヶ月、顎の骨とインプラントが結合するのを待つ間、私は何度も鏡を見て、最終的に入る歯の形や色をシミュレーションしました。そして、ついに最終的なセラミックの歯が装着される日。口の中にセットされた新しい前歯を見た瞬間、私は再び涙を流しました。でも、それは絶望の涙ではなく、歓喜の涙でした。そこには、私がずっと夢見てきた、隣の歯と見分けがつかないほど自然で、透明感のある美しい歯があったのです。私は、何年、いや何十年ぶりに、心の底から歯を見せて笑うことができました。前歯の抜歯は、私にとって終わりではなく、新しい人生の始まりでした。失ったものより、手に入れたものの方が、ずっとずっと大きかったのです。
前歯を抜歯して最高の笑顔を手に入れるまで