舌や歯茎に見られる黒や青っぽいシミの正体として、意外と知られていないのが「メタルタトゥー(金属刺青)」です。これは、ファッションで入れるタトゥーと同じように、金属の微粒子が粘膜の中に入り込み、色が定着してしまった状態を指します。過去に受けた歯科治療が原因となっているケースがほとんどで、特に数十年前に行われた治療が、長い時間を経て黒い点として現れてくることがあります。原因となるのは、主に「アマルガム」と呼ばれる歯科用金属や、銀合金の削りカス、あるいは被せ物の土台に使われている金属(メタルコア)などです。治療中に歯を削った際の金属粉が飛び散って粘膜の微細な傷に入り込んだり、長年の使用によって金属イオンが溶け出し(イオン化)、それが周囲の歯茎や、接触している舌の粘膜に沈着したりすることで起こります。アマルガムには水銀や銀が含まれており、これらが組織内のタンパク質と結合すると黒や青黒い色を呈します。メタルタトゥーの特徴は、色が均一ではなく、境界もややぼやけていることが多い点です。色は黒、灰色、青色、茶色など様々で、大きさも点状のものから、帯状に広がるものまであります。痛みや腫れといった炎症症状は全くなく、大きさも急激に変わることはありません。何年も前からずっと同じ場所に黒いシミがある、そしてその近くに金属の詰め物や被せ物がある、という場合は、このメタルタトゥーである可能性が高いでしょう。健康上のリスクについては、基本的に良性であり、そのままにしておいてもがん化したり悪さをしたりすることはありません。しかし、金属アレルギーを持っている方の場合、溶け出した金属イオンがアレルギー反応の原因となり、口内炎や掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などの全身症状を引き起こす引き金になる可能性は否定できません。また、見た目の問題として、特に前歯の近くや、笑った時に見える舌の縁にある場合は、審美的に気になるという方も多いでしょう。治療法としては、原因となっている金属の詰め物をセラミックやレジンなどの非金属素材に交換することが第一歩です。これにより新たな金属の供給を断ちます。すでに入り込んでしまったシミについては、レーザー治療や、外科的にその部分の粘膜を切除する方法があります。レーザーであれば、黒い色素に反応して焼き飛ばすことができるため、比較的侵襲が少なく綺麗に消せるケースが多いです。ただ、深くまで入り込んでいる場合は完全に取り切れないこともあります。もし舌や歯茎に黒い点を見つけ、近くに銀歯があるなら、一度歯科医院で相談してみてください。「昔の治療の跡ですね」と診断されれば、まずは一安心です。しかし、それがメラノーマなどの病変と紛らわしい場合もあるため、やはり自己判断せず、プロの目で鑑別してもらうことが重要です。金属は錆びて溶けるもの。口の中の黒い点は、過去の治療の歴史が刻まれた証なのかもしれません。
歯科治療の金属が舌を黒く染めるメタルタトゥー