「最近、舌がピリピリして痛い」「鏡を見たら、舌全体がツルツルして赤くなっている」。そんな症状に見舞われたとき、私たちはまず口の中のトラブルを疑いますが、実はその原因が「栄養失調」にあるかもしれないことをご存じでしょうか。現代の日本において栄養失調なんて大げさだと思われるかもしれませんが、偏った食生活や無理なダイエット、あるいは胃腸の吸収障害によって、特定の栄養素が極端に不足し、それが舌の異常として現れるケースは意外と多いのです。特に、舌の赤みや痛みに直結するのが、鉄分、ビタミンB12、亜鉛、葉酸といった微量栄養素の欠乏です。中でも代表的なのが「ハンター舌炎」と呼ばれる症状です。これは悪性貧血(ビタミンB12欠乏性貧血)に伴って現れる舌の変化で、舌の表面にあるブツブツとした突起(乳頭)が萎縮して消失し、舌全体が平らでツルツルした状態(平滑舌)になります。保護機能を失った舌の表面は赤く炎症を起こし、ヒリヒリとした痛みや灼熱感、味覚障害を引き起こします。同様の症状は鉄欠乏性貧血でも起こり、特に月経のある女性や妊婦さんは鉄分が不足しやすいため注意が必要です。体内の鉄が不足すると、酸素を運ぶヘモグロビンが作られなくなるだけでなく、粘膜の代謝に必要な酵素も働かなくなるため、舌の細胞が正常に再生されず、薄く弱い状態になってしまうのです。また、ビタミンB群(B2、B6、ナイアシンなど)の不足も舌炎のメジャーな原因です。これらは皮膚や粘膜の健康維持に不可欠なビタミンであり、不足すると口角炎や口内炎と併発して、舌が赤く腫れぼったくなり、亀裂が入ったり、地図状の模様ができたりすることがあります。インスタント食品ばかり食べている、アルコールを多飲する(アルコールの分解には大量のビタミンBが必要です)、激しいストレスに晒されているといった状況では、ビタミンB群が急速に消費され、供給が追いつかなくなることで舌が悲鳴を上げ始めるのです。さらに、現代人に多いのが「亜鉛不足」による舌のトラブルです。亜鉛は新しい細胞を作るために必須のミネラルですが、加工食品に含まれる添加物が亜鉛の吸収を阻害するため、知らず知らずのうちに不足していることがあります。亜鉛が足りなくなると、味を感じる味蕾(みらい)細胞の再生が滞り、味が分からなくなるだけでなく、舌が荒れてピリピリとした痛みを感じるようになります。これらの栄養不足による舌炎の特徴は、「食事を改善したりサプリメントを摂取したりすることで劇的に改善する」という点です。もし思い当たる節があるなら、まずは食生活を見直してみましょう。レバー、赤身の肉、魚介類(特に牡蠣)、納豆、緑黄色野菜などを積極的にメニューに取り入れます。しかし、すでに舌が赤くツルツルになり痛みが出ている場合は、食事だけでの回復には時間がかかるため、内科や消化器科を受診して血液検査を受け、不足している栄養素を特定した上で、医療用のビタミン剤や鉄剤を処方してもらうのが確実です。舌は「内臓の鏡」とも呼ばれ、全身の栄養状態を映し出すバロメーターです。