親知らずの周りの歯茎が腫れているだけでなく、38度を超えるような高熱や、体全体のだるさ、悪寒といった全身症状が現れた場合、それは単なる歯茎の炎症にとどまらない、より深刻な状態に進行している可能性を示す、危険なサインです。智歯周囲炎が悪化すると、細菌が歯茎の奥深くへと侵入し、顎の骨の内部や、周辺の組織にまで感染が広がってしまうことがあります。これが「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」や「顎骨周囲炎(がっこつしゅういえん)」といった、重篤な炎症性疾患です。蜂窩織炎は、特定の部位に膿が溜まる「膿瘍(のうよう)」とは異なり、組織の隙間に沿って、びまん性(広範囲)に炎症が広がっていくのが特徴です。顔がパンパンに腫れ上がり、皮膚は赤く、熱感を帯び、触ると硬く感じられます。口が開けられないほどの強い痛みや、食べ物を飲み込むことさえ困難になる嚥下痛を伴います。そして、細菌が血液中にまで入り込むことで、高熱や倦怠感といった、全身に及ぶ症状を引き起こすのです。この状態を放置すると、炎症はさらに首の方や、胸の方(縦隔)にまで波及したり、細菌が血流に乗って全身を巡る「敗血症」という、命に関わる極めて危険な状態に陥る可能性もゼロではありません。親知らずの腫れと共に、以下のような症状が見られたら、夜間や休日であっても、ためらわずに「歯科口腔外科」のある総合病院の救急外来など、緊急対応が可能な医療機関を受診してください。38℃以上の高熱がある顔の腫れがひどく、口がほとんど開けられない食べ物や唾液を飲み込むのが困難、あるいは息苦しさを感じる腫れが顎の下や首の方まで広がってきた病院では、まず点滴で抗生物質を大量に投与し、体の中から強力に細菌を叩きます。そして、膿が溜まっている場合は、歯茎や皮膚を少し切開して、膿を外に出す「消炎手術(切開排膿)」が必要になることもあります。症状の重さによっては、数日間の入院が必要となるケースも少なくありません。親知らずの腫れと発熱は、「歯の問題」と軽視してはいけない、体全体からの緊急警報なのです。
親知らずの腫れと発熱。危険なサインと対処法