食事をしようとして「いただきます」と言った瞬間、あるいは梅干しやレモンを見た瞬間、舌の下がキューッと締め付けられるように痛み、腫れてくる。そして食後しばらくすると、その腫れや痛みが嘘のように引いていく。もし、舌の下の口内炎のような痛みと連動して、このような不思議な現象が起きているなら、それは口内炎ではなく「唾石症(だせきしょう)」という全く別の病気かもしれません。尿管結石や胆石と同じように、唾液を作る管の中に「石」ができて詰まってしまう病気です。私たちの口の中には、唾液を作る大きな工場(唾液腺)がいくつかありますが、その中でも舌の下にある「顎下腺(がっかせん)」や「舌下腺」から唾液を運ぶ管は、重力に逆らって上に向かって走行しており、かつ長く曲がりくねっています。そのため唾液が停滞しやすく、カルシウムなどの成分が沈着して石ができやすい構造になっています。この管の出口は、舌の裏側の筋(舌小帯)のすぐ両脇にあります。ここに小さな石が詰まってしまうと、食事の刺激で作られた大量の唾液が出口を失い、風船に水を入れすぎたように管や腺がパンパンに腫れ上がってしまうのです。これが食事時の激痛(唾仙痛)の正体です。唾石症の場合、舌の下をよく観察すると、口内炎のような白い潰瘍ではなく、粘膜の下に白っぽい硬いものが透けて見えたり、指で触るとコリコリとした硬い石のようなものを触れたりすることがあります。また、炎症を併発していると、管の出口(舌下小丘)が赤く腫れ上がり、膿が出てくることもあります。この状態になると、常にズキズキとした痛みがあり、口内炎と勘違いしやすいのですが、決定的な違いは「食事のタイミングでの痛みの増減」と「顎の下(エラの内側あたり)の腫れ」です。唾石がある側の顎の下を押すと痛みがあったり、硬いしこりを感じたりする場合は、唾石症の疑いが濃厚です。小さな石であれば、酸っぱいものを食べて唾液の分泌を促し、唾液の勢いで石を押し流すという荒療治で排出されることもあります。また、水分を多く摂り、顎の下を優しくマッサージすることで流れが良くなり、症状が改善することもあります。しかし、石がある程度大きくなってしまうと自力での排出は不可能です。詰まったまま放置すると、細菌感染を起こして高熱が出たり、首全体が激しく腫れたりする「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という重篤な状態になりかねません。治療は、口腔外科で行います。管の出口付近にある浅い位置の石であれば、口の中から局所麻酔をして少し切開するだけで、ポロリと石を取り出すことができます。入院も必要なく、処置自体は短時間で終わります。しかし、腺の奥深くに石がある場合は、全身麻酔での手術や、内視鏡を使った摘出が必要になることもあります。「舌の下が痛い」=「口内炎」という思い込みは、痛みの原因を見誤らせます。「ごはんを食べる時だけ特に痛くて腫れる」という特徴的なサインがあるなら、それは石の仕業かもしれません。石は待っていても消えません。専門医の手で取り除いてもらえば、あの食事の時の不快な痛みから劇的に解放されます。