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喫煙者の歯茎が黒くなるのはなぜ?ヤニだけじゃない本当の理由
喫煙者の口元を見ると、歯が黄ばんでいるだけでなく、歯茎が黒ずんでいることに気づくことがあります。「タバコのヤニが歯茎についたのだろう」と、漠然と考えている人も多いかもしれませんが、実は、その黒ずみの原因は、単なる汚れの付着ではありません。そこには、タバコに含まれる有害物質が、歯茎の組織に深刻なダメージを与えている、恐ろしいメカニズムが隠されています。喫煙者の歯茎が黒くなる主な原因は、二つあります。一つは、「メラニン色素の沈着」です。タバコに含まれるニコチンやタールといった有害物質が、口の中の粘膜から吸収されると、体はそれを異物とみなし、防御反応として、色素細胞であるメラノサイトを活性化させます。その結果、シミの原因となるメラニン色素が過剰に生成され、歯茎に沈着してしまうのです。これは、肌が紫外線から身を守るために日焼けするのと同じメカニズムです。この現象は「喫煙者メラニン色素沈着症(スモーカーズメラノーシス)」と呼ばれ、特に、タバコの煙が直接当たりやすい、前歯の歯茎によく見られます。もう一つの、より深刻な原因が、「血行不良によるうっ血」です。タバコに含まれるニコチンには、血管を強力に収縮させる作用があります。喫煙を続けると、歯茎の毛細血管は常に収縮した状態になり、深刻な血行不良に陥ります。これにより、血液の流れが滞り、酸素が不足したどす黒い血液(静脈血)が歯茎に溜まってしまいます。このうっ血した血液の色が、粘膜を通して透けて見えるため、歯茎全体が暗い赤紫色や、黒っぽい色に見えるのです。この血行不良は、歯周病の進行にも深刻な影響を及ぼします。歯茎への酸素や栄養の供給が滞るため、組織の修復能力が低下し、細菌に対する抵抗力も弱まります。さらに、ニコチンの作用で、歯周病の初期サインである「歯茎からの出血」が抑えられてしまうため、本人が歯周病の進行に気づきにくくなるという、非常に厄介な側面も持っています。歯茎の黒ずみは、単なる見た目の問題ではありません。それは、あなたの歯茎が、タバコの煙によって酸欠状態に陥り、悲鳴を上げているサインなのです。美しいピンク色の歯茎と、将来の歯の健康を取り戻すための、最も確実で唯一の方法は、一日も早く禁煙することです。