笑顔の印象を大きく左右する前歯。事故で欠けてしまったり、大きな虫歯ができてしまったりした時、歯科医院で「差し歯にしますか?」と提案されることがあります。この「差し歯」という言葉は広く知られていますが、実は正式な歯科用語ではありません。一般的に、差し歯とは、歯の根っこ(歯根)が残っている場合に、その根に土台(コア)を立て、その上に人工の歯(クラウン)を被せる治療法全体のことを指す俗称です。つまり、多くの場合「差し歯=土台+クラウン」という構造になっています。時々「クラウン」という言葉と混同されますが、クラウンは単に歯に被せる冠のことを指し、土台の有無は問いません。差し歯治療が必要になるのは、主に歯の大部分が失われてしまったケースです。例えば、転倒やスポーツなどで前歯が大きく折れてしまったけれど、幸いにも歯の根はしっかり残っている場合。あるいは、虫歯が神経にまで達するほど進行し、神経の治療(根管治療)を行った後、歯質が脆くなってしまった場合などです。通常の詰め物(インレー)では補いきれないほどの大きな欠損に対して、歯の機能を回復させ、美しい見た目を取り戻すために差し歯治療が選択されます。自分の歯の根を利用するため、噛み心地が自然に近く、ブリッジのように両隣の健康な歯を削る必要がないのが大きな利点です。ただし、差し歯にするためには、土台を支えるための健康な歯根が十分に残っていることが絶対条件となります。もし歯根の状態が悪かったり、抜歯が必要になったりした場合は、差し歯ではなく、ブリッジやインプラントといった他の治療法を検討することになります。