奥歯のさらに奥、歯茎がズキズキと痛み、ぷっくりと腫れ上がる。食事をするのも、口を開けるのさえ辛い。多くの人が経験するこの辛い症状は、多くの場合「親知らず」が原因です。では、なぜ親知らずは、これほどまでに激しい腫れや痛みを引き起こすのでしょうか。そのメカニズムを理解することが、適切な対処への第一歩となります。親知らずが腫れる最大の原因は、「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼ばれる、親知らずの周りの歯茎の炎症です。親知らずは、顎の一番奥、現代人の顎のスペースが足りない場所に、一番最後に生えてくる歯です。そのため、まっすぐに生えることができず、斜めに生えたり、横向きに埋まったり、あるいは歯の一部だけが歯茎から顔を出している、といった「不完全な萌出(ほうしゅつ)」の状態になることが非常に多いのです。この不完全な萌出が、トラブルの温床となります。特に、歯の一部だけが歯茎から見えているような場合、歯と歯茎の間に、深くて複雑な隙間(ポケット)ができてしまいます。この隙間は、歯ブラシが届きにくく、食べ物のカスや細菌が非常に溜まりやすい、絶好の隠れ家となります。ここに溜まった細菌が、まるで秘密基地のように繁殖し、炎症を引き起こすのです。そして、私たちの体の抵抗力は、常に一定ではありません。仕事の疲れや、寝不足、風邪などで体力が落ち、免疫力が低下すると、普段は抑えられていた細菌が、ここぞとばかりに活発化し、一気に勢力を増します。その結果、歯茎は急性的な炎症を起こし、赤く腫れ上がり、強い痛みや膿を伴う「智歯周囲炎」を発症するのです。つまり、親知らずの腫れは、「不完全な萌出による汚れの溜まりやすさ」と、「体の抵抗力の低下」という、二つの条件が重なった時に起こる、必然的なトラブルと言えます。さらに炎症が進行すると、膿が顎の下や頬の方にまで広がり、顔全体がパンパンに腫れ上がったり、口が開けにくくなったり(開口障害)、飲み込む時に喉が痛んだり(嚥下痛)、発熱や倦怠感を伴ったりすることもあります。
親知らずが腫れるのはなぜ?痛みの原因とメカニズム